P&Gのブランド戦略より

ブランド・マネジメント制度がP&Gのために有効に機能する理由は、「消費者は単に商品を買うのではない。ブランドを買うのだ」という、同社の基本的な確信に支えられているからである。

P&Gの経営行動にあてはめる基盤となる行動指標

1.消費者は女王である。

2.優れた製品群を打ち立てる。

3.独自性のあるブランドを創造する。

4.長期的な視点を保つ。

1.消費者は女王である。

[消費者を信頼する] 

消費者を見分け、識別している。彼女らは入手可能な製品について、注意深く相対的なメリットとそれに伴うコストを秤にかけている。これに対して実質的な価値を提供できる者にこそ、報酬は与えられる。

我々は、世界中の消費者の生活を向上させる優れた品質と価値をもつ製品を提供する。その結果、消費者は、我々にトップクラスの売上と利益伸張をもたらし・・・・・。

P&Gのアシスタント・ブランド・マネージャーの一人が、消費者がもっと早く歯磨きを使いはたすために、「クレスト」歯磨きのチューブ開口部を大きくするように提案したことがある。これこそ悪いアイデアの典型と言える。欺瞞に満ちているからだ。しかも消費者はけっしてバカではないから、調節して使うだろおう。消費者は、自分自身で使うべき製品の使用料を正確に決めているのだ。

 

2.消費者をバカにしてはならない。

質の低い製品を市場で売ろうとする試みは、けっして許されない。わずかな製品パフォーマンス上の優位点や不利な点ですら非常に重要である。それこそが、結果的には消費者からの支持や不支持に結びつくのである。

3.ブランドの価値は消費者の評価で決まる。

価値に対する消費者の感受性は、ブランドが市場において遂げた数多くの勝利(そして数少ない失敗)から判断できる。価値=認識されたベネフィツト÷価格

4.消費者が「何」を「どのように」求めているかを見つける。

厳密でシステマティックな消費者調査プログラムを通じて、まず消費者ニーズを完璧に理解し、そのうえで、ニーズに見合った製品とマーケティング・プログラムを開発する―P&Gは、このようにして成功を築いた第一位の主要消費財メーカーとして、一般的に認められている。

かつて、P&Gで調査業務を担当していた人物は、「多くの他の会社とは違い、P&Gでは、本当に心から信じて調査を利用しています。彼らは、消費者の声に耳を傾けることが、大好きなのです」と語っている。

5.消費者自身も気づいていないニーズを先に見つける。

消費者は、欲しい製品があれば、それをあなたに伝えることができるし、

代替品を示さなければ、どちらの製品を好むかについても語ってくれる。

しかし、参考にするものが存在しない状況や、消費者が潜在的に抱えている問題を

解決する製品に関しては、消費者から意見を出してもらうことは期待できない。

6.消費者の声に注意深く耳を傾ける。

方法論における落とし穴が「不備な調査」という結果を生む。

7.製品販売後も消費者の声にしっかり耳を傾ける。

ほとんどの会社は、なんらかのかたちで消費者サービス部門を持っている。こうした部門も機能を消費者の不平不満をなだめ、それをそらすだけと狭くとらえている会社もある。しかし、P&Gでは、その部門の業務をチャンスだと捉えている。ブランド使用者のあらゆるフィードバックを積極的に求め、それに応じようと心がけている。こうしたプロセスを経て、消費者との関係強化を目指しているのだ。

8.技術革新に投資する。

より良い製品とは、単なる偶然からは生まれない。競合する分野内でのサイエンスとテクノロジーについて、リーダーであり続けようと専念する会社だけが、将来的にも一貫してベストな製品群を開発できるだろう。

9.テクノロジーへの過剰な依存は失敗のもと。

新しいテクノロジーに基づく製品は、必ずしも最初から成功できるとは限らない。失敗時の対処法―製品の改良や、消費者の要望を聞く試み―を確保しておくべきである。

10.製品パフォーマンスの重要性。

消費者のための実質的な価値は、装飾性やイメージに基づくベネフィットより、むしろ、製品が本来もつ機能性のパフォーマンス・ベネフィットの結果によるものである。

11.最高というだけではけっして十分ではない。

いったん製品改良を終えても、すぐに次の改良を心がけること。

不満をつのらせることで前進できる  

by ニール・マッケロイ

12.製品は買うもの、ブランドは選ぶもの。

消費者が関係性を形成する対象はブランドである。製品や企業そのものではない。

製品に「何が」「どのように」できるのかという二つの製品パフォーマンスが、

ブランドの中核的なアイデンティティになる。また、ブランドには、感情や、

信頼をべーズにした消費者とのつながりが存在し、それが競合ブランドとの区別や、

明確な個性、キャラクターを生じさせるのである。

13.自社内にもライバル・ブランドをもつ。

もし誰かが、あなたのランチを勝手に食べてしまったとしよう。

それが、敵に当たる人物であるよりは、家族の誰かだったほうがましと思うだろう。

同様に、カテゴリー内に、一つ以上のブランドが存在出来る余地があるならば、

他企業のブランドと競うよりは、自社内のブランドと競う方がましと言える。

14.消費者ベネフィットは広げても、ブランドとして妥協すべきではない。

メガ・ブランド戦略の鍵は、「ブランドのコア・ポジショニング―ブランドの基本的なベネフィットや、

消費者が抱くブランド・イメージ―を否定するかたちでの新技術導入や製品ラインナップの拡張は

回避すべきだ」という点にある。

15.ブランドは停滞してはならない。

ブランドとは、動的なものであり、絶えず変化し続ける存在である。

消費者ニーズが進化するにつれて、それを満足させる方向に変化することで、

ブランドも進化しなければならない。

16.長期的な視点に立って収益性を確立する。

会社の長期的な生き残りは、長期的な高い収益性に依存している。

17.正しいことをする。

正しいことをするのは、必ずしも楽なことではない。

実際、ジレンマから抜け出す方法としては簡単なものではなく、

むしろ最も知力の必要な方法だろう。

しかし、正しいことをするのは、原則に基づいており、長期的に見れば、

当事者にとって常に最善の方法なのである。

いくらそれが大きくても、不正な行為を正当化し得る利益など存在しない。

結果的に、そうした利益は非倫理的であるがゆえに正当化できず、

自ら組織を崩壊させることにつながりかねない。

by オーウェン・バトラー

何らかの原則を払わなければ、どんな原則も原則たり得ない。

by ボブ・ゴールドスタイン

P&Gのビジネス行動マニュアル

行動を起こす前には、以下の質問にすべて「はい」と答えられねばならない。

1.私の行動は、社内的に考えて、「行動すべき正しいこと」だろうか?

2.私の行動は、公的機関による詳細な調査に耐えられるだろうか?

3.私の行動は、倫理性を重視する企業としてのP&Gの評判を守り切れるだろうか?

もしあなたの答えが、無条件の「はい」でなければ、行動を実施してはならない。

18.戦略的思考は企業の生き方そのもの

戦略的思考は、長期的目標に沿った成果を達成するため、

情報をもとにして資産と競争力を強化する方法である。

19.勝利こそがすべて

勝利とは、競争相手を打ち負かすだけではない。

目標を達成し、自分自身の基準を乗り越えることでもある。

つまり、最高の自分になるということなのだ。勝利は、自らを成長させる。

P&Gにおいて、勝つことは仕事に対する姿勢であり、行き方そのものである。

勝利とはプロ意識だ。

基本をつかむことです。それこそが、マネジメントで勝つためになすべきことです。

自らが携わるビジネスの基本、自分の果たすべき機能、そして、部下を管理する

プロセスを掌握しておかねばなりません。でなければ、結局は、職人になってしまい、いずれ間違いなく輝きが失われて行くでしょう。

 芸術であれ、スポーツでれ、ビジネスであれ、どんな職業でも基本を身につけるには、多大な犠牲、終わりなき反復、そして、最善の方法の絶え間ない探求が必要です。

すべて掌握しようとするプロは、基本を会得するためならいかなる犠牲も払い、

どんな経験も下働きも無駄ではないという態度を仕事に対してとるものなのです。

すべては、姿勢から始まります。プロ意識を修得しようと努力し、生き方として

勝つことを身につけるのです。勝てるマネージャーはになりたければ、

そうした姿勢を全力で身につけて下さい。

by エド・アーツト

20.知り得ることはすべて知る。

知識は戦略的思考の基盤であり、あらゆる決定に基礎になる。

それは勝利を得るための基本なのである。

21.データから活動の指針を見出す。

出荷報告書マーケット・シェア情報といった、日常的に収集したマーケティング・データからは、

行動のヒントを見出すことができる。ただし、新しい調査や、情報は、事前にその情報を

どう活用するか理解したうえで入手するこが非常に重要である。

22.考慮されない意見とは

事実情報が不十分な状態で決断を下す必要があるときも、P&Gでは、

「直感」に基づく意見と、情報に基づく判断を混同するミスは許されない。

事実を確かめられないなら、その意見には何の価値もない。 

by リチャード・デュプリー

何が正しいか、誰が正しいかより重要だというのが、我々の一般的な姿勢である。

どんな個人より、事実、真実、倫理の方が、P&Gでは、はるかに重い権威を持っている。

by ブラッド・バトラー

23.誤りを活かす

ものごとには常に直線的に進歩するとは限らない。大切なのは、誤りを認め、

それを新しい方法で検討することである。

ある有名な失敗がP&Gの歴史の重要な一歩となっている。

1879年、アイボリーと名付けたばかりの新しいホワイトソープの原料は、

クラッチャーという機械で攪拌されていた。操作係が、見た目、匂い、

そして、味まで確認し、石鹸の型枠に流し込める状態だと判断するまで、

クラッチャーのアームはが原料をかき混ぜていた。ある日、クラッチャーの

操作を担当する社員が昼食に出かけるとき機械を止めるのを忘れた。

 戻ってきたとき、その社員は、驚きのあまり、立ちすくんだ。

泡で膨らんだ原料は、明らかに攪拌時間が長すぎた。

 しかし、原料には、何の影響も出ていなかったので、

上司は問題ないと判断したのである。一か月ほどして、「あの浮かぶ石鹸が欲しい」

という消費者が現れ、追加注文が入り始めた。

この事件と、偶然できた浮揚力のある石鹸への顧客の関心は、マネジメントの

注意を引き、その製造工程が採用された。

結果的に浮かぶアイボリー石鹸は、同社の基軸ブランドとなる。

すべては、昼食時のミスが始まりだった。

24.側面から考える。

製品革新、新しいアイデア、新しいやり方は、側面的な思考や、

別分野で学んだ教訓の応用から得られる。

25.書くことからすべては始まる。

メモを書くことは、P&Gの企業文化に不可欠である。それは、情報交換と意思決定の手段である。

アイデアや提案は書かれることによって、それ自体の長所を明らかにし、メモ分析力や批評的思考力を

つけるのを助けてくれる。

26.メモは欠陥のある考えを露呈させ、優れた考えを輝かせる。

P&Gのメモは、アイデアを示す論理的で連続性のある方法であり、

全てが基本的に同じように書かれているため、フォーマットが周知され理解しやすい。文章内のつながりが悪いと、この「理解しやすさ」が損なわれる。

「背景情報」から自然な流れで「提案」に進まないとか、あるいは、

「提案」が「根拠」によって裏付けられない場合には欠陥が露呈する。

しかし、すべてがスムーズにつながっていれば、その考えに批判の余地はない。

もし、資本、建物、、ブランドを残して、社員を取られてしまったら、

会社は潰れるだろう。だが、社員が残っていて、資本、建物、ブランドが

取られたのなら、我々は、10年以内にすべてを再建できるろう。 

by リチャード・デュプリー

27.シンプルで差別化できるブランド名をつける。

前がブランドになっていくのであって、その反対はあり得ない。

28.パッケージは、ブランドの顔である。

ロゴ・デザインとパッケージ・デザインが結びついてブランドのビジュアル・シンボルを形成する。

パッケージは、テレビや、印刷広告ではブランドのサインとして用いられ、消費者が店頭で買い物を

する際にも目印になる。したがって、よいパッケージとは、明確な特徴を持ち、目ですぐに確認できて

競合品と混乱しないものである。

29.売場の棚でのインパクトを感じさせるデザイン

パッケージを一つずつ並べると、多くの似たようなパッケージとも大いに違って見える。

P&Gは、最終的なパッケージ・デザインを決めるにあたり、何通りかのフェーシングを作って、

それらが、実際の棚で競合品よりどれだけ目立ち、どう見えるかを確認する。