バフェットの誠実さ

法定に限らず人生全般においても、信頼できる人間か否かによって多くの事柄が

決まるものである。例えば、AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)社が

ジェネラル・リー社(ウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイ社の子会社が所有)

と行った保険取引をめぐり、2005年に米国政府の調査が入ったとき、倫理的で誠実な人物と

評判の高かったウォーレン・バフェットは、取引の詳細がまだ明らかになっていないうちから、

「疑わしき被告人の利益とする」原則を貫いていた。ウォートン・ビジネス・スクールの

ある倫理学教授は、「バフェット実績を見れば、証拠不十分で無罪にしたくなる」と

コメントしていた。また、あるCEOは、こんなことを話している。「金持ちであんまり目立つせいで、

隅から隅まで調べ上げられている男がいる。彼には、評判の良さだけでなく、実績もある」

もちろん、バフェットの疑いは晴れたが、それだけではない。「疑いがかかった」という汚点さえ

つかなかった。文句のつけようのない信頼性のなせるわざである。

 

私は人を雇う際、三つの条件で判断する。第一が人間としての誠実さ、第二が知性、

そして、第三が行動力だ。だたし、第一の条件が欠けると、他の二つはその人を

滅ぼす凶器と化す。

by ウォーレン・バフェット

約束の価格

約束を守ることと信念を貫くことの両方において誠実を実践した好例は、

ハンツマン・ケミカル社のジョン・ハンツマン会長だ。

彼は著書、『賢いバカ正直」になりなさい』の中で、こんな話を紹介している。

ハンツマンは長い交渉の末、自分の会社の一部門をグレート・レイクス・ケミカル社に

売却することに同意した。グレート・レイクス社のエマーソン・カンペン会長兼CEOとの

簡単な握手で、5,400万ドルの取引が成立したのだ。

 ところが買い手のグレート・レイクスは、契約書の作成になかなか腰を上げなかった。

結局、契約書を作るまでの6ヵ月半で原材料価格が大幅に下落したため、ハンツマンの

利益は、当初の3倍という空前の水準にまで膨らんだ。売却部門の40%の評価額は、

5,400万ドルから2億5,000万ドルへと跳ね上がった。

契約書の署名が済んでいない状態で、カンペンは、ハンツマンに電話をして言った。

差額分を全額支払う必要はないと思うが、半分は持つのが筋だろう、と。つまり、彼は差額を

半分ずつ負担することを申し出た。ところが、ハンツマンは、これを拒否した。握手して、

5,400万ドルで合意した以上、彼はその価格にこだわったのだ。

カンペンは言った。「でも、それじゃあ君が大損だ」

ハンツマンの返事はこうだった。「エマーソン、君は君の会社のために交渉しているんだろう。

だったら、私にも私の会社のために交渉をさせてほしい」

 このときカンペンは、ハンツマンの誠実な態度にとても感銘を受けたので、ハンツマンと

個人的に親しい間柄ではなかったにも関わらず、自分の葬儀で弔辞を読む二人のうちの

一人をハンツマンに託したのだった。

 ハンツマンにははっきりとした信念があった。彼はこの経験について、こう記している。

「あのときグレート・レイクス社に2億ドル追加して支払わせることも出来ただろう。

 だが、そうしなかったお陰で、私は自分の良心と闘ったり、過ぎたことを悔やんだりする

必要がまったくなかった。自分が口にした以上、それを変えるわけにはいかなかったのだ」

 ハンツマンは、自分にとって、何が重要かよく分かっていた。彼の価値観は明確だったた

からこそ、その価値観を実践するのが難しい状況になっても、彼は苦闘する必要がなかった。

そして、自分の価値観を最後まで貫き通すことによって信頼を築いたのである。